ピアニスト上原ひろみさんへの公開書簡 :イスラエルでのコンサート中止のお願い



左:上原ひろみさんイスラエル公演の宣伝サイト
右:ベツレヘムイスラエル軍に殺害された13歳の少年の葬儀を終えた後の人々を威嚇する兵士たち。(Ma'an Oct 9, 2015


イスラエル軍によるパレスチナ人に対する攻撃がエスカレートする中、ジャズピアニストの上原ひろみさんによるテルアビブ公演が来月16日に予定されています。このことに対し、10月23日、市民団体6団体が連名で公演キャンセルを要請するメッセージをメールで送付しました。

2008-9年のガザ虐殺の最中に村上春樹さんが「エルサレム賞」を受賞したことが象徴するように、イスラエルはこれまで海外著名人との文化交流をその広報外交政策に最大限利用し、占領やアパルトヘイトの現実を覆い隠そうとしてきました。特にこの数年、在日イスラエル大使館はジャズを通じたブランド戦略に力を入れています。

イスラエルにおける公演はパレスチナ人に対する人権侵害や人種隔離政策に対する間接的な加担になり得るものであり、パレスチナ人の基本的権利が保障されるまで中止すべきとの要請に応え、これまで多くのアーティストがイスラエル公演をキャンセルしてきました。そのなかには、カルロス・サンタナエルヴィス・コステロレニー・クラヴィッツスタンリー・ジョーダンカサンドラ・ウィルソンローリン・ヒルなどが含まれます。

かつての南アフリカにおいて、文化ボイコットやアカデミック・ボイコットを含めた粘り強い外圧がアパルトヘイト政策廃止を促したように、イスラエルによるアパルトヘイト政策を終わらせるための広範な国際的圧力が求められています。

以下のメッセージは、上原ひろみオフィシャルサイトの連絡用メールフォームから送付しました。

上原 ひろみ さま

アパルトヘイト国家イスラエルでのコンサート中止のお願い

私たちは、現在、イスラエルパレスチナ人に対して行っている深刻な人権侵害、戦争犯罪行為について憂慮し、そうした状況がなくなることを願い、ささやかな活動を行っている市民団体です。

とりわけ、現在、イスラエル軍による暴力は日に日に激しくなっており、10月に入ってだけで50人以上のパレスチナ人が殺害されています。そうした人道的危機状況の中、あなたがイスラエルでコンサートを開催するということが、「イスラエルは中東で唯一、文化的で民主的で普通の国」という同国の広報外交に寄与し、そのアパルトヘイト国家としての側面を不可視化させる意味を帯びてしまうことについて私たちは憂慮せざるを得ません。

最近、ボン・ジョヴィイスラエルでのライヴに対し、元ピンク・フロイドのベーシストであるロジャー・ウォーターズが、「イスラエル政府のアパルトヘイトを助長するようなことはしないようにと、事細で時には説き伏せるような手紙を書くこと」に辟易していることを表明しつつ、それでも書簡を送っていますから、イスラエルでのコンサートに参加なさるあなたも読まれたに違いありません。

ロジャー・ウォーターズは書いています。「君たちがライヴで肩を並べるのはこんなやつらだ。赤子を燃やしたテロリスト/レイチェル・コリーをひき殺したブルドーザー運転手/サッカー選手の脚を射ち砕いた兵士/浜辺にいた男の子たちを砲撃した海兵/緑のシャツを着た子どもを殺した射撃兵/13歳の女の子にライフル銃の弾をすべて射ち尽くした男/ジェノサイドを命じた法務大臣

そして続けます。「君にだってできたはずだ、正義の立場に立つことが。難民キャンプに爆弾を投下するのを拒んだパイロット/兵役よりも8度目の刑期を選んだ若者/自由を得られるまで266日間ハンガーストライキした受刑者/人びとの命を救うはずが入国を禁じられた医師/分離壁に向かって行進し迫害された農民/がれきの中で育った足の無い子ども、そして突然成長を断たれた550人の子どもたち、それというのも、わたしたちがこしらえたミサイルや砲弾や銃弾で」

ロジャー・ウォーターズは「傍らにいながら沈黙し無関心でいることこそ最大の罪」と締めくくります。米国で過ごすあなたであれば、マーティン・ルーサー・キング・ジュニアの残した言葉とされる「最大の悲劇は、悪人の圧制や残酷さではなく、善人の沈黙である - The ultimate tragedy is not the oppression and cruelty by the bad people but the silence over that by the good people 」を思い起こすかもしれません。

ロジャー・ウォーターズの公開書簡の原文のURLを記します。彼が拾いだした海兵や射撃兵、あるいはパイロットや医師の記事へのリンクがあります。
原文:Roger Waters to Jon Bon Jovi: “You stand shoulder to shoulder with the settler who burned the baby”

でも、上原ひろみさん、あなたに読んで欲しい記事をひとつ選ぶなら、脚を射ち砕かれたサッカー選手の記事です。ふたりのうちのひとりは両脚に1発ずつの銃弾、もうひとりは、左脚に7発、右脚に3発、そして左手に1発、11発の銃弾を受けています。通常なら命を狙うところ(ガザに対する空爆では、やはりナショナルチームメンバー3人が殺戮されていますが)、サッカー選手故に、故意に脚に銃弾を集中させたと見えないでしょうか、二度とサッカーができない事を嘆き悲しみながら生きるよう強いる悪意で。

上原ひろみさん、想像してみてください。あなたが指を射ち砕かれたらと、それもピアニスト故に、と。どうぞ、彼らの嘆きに思いを馳せてください。そして、イスラエルアパルトヘイト政策を放棄するまで、イスラエルでのコンサートに参加しないと決意してください。

2015年10月23日

アハリー・アラブ病院を支援する会
「ストップ!ソーダストリーム」キャンペーン
占領に反対する芸術家たち
パレスチナと仙台を結ぶ会
パレスチナの平和を考える会
フェミニズムレズビアン・アートの会
(50音順)

【参考記事】
イスラエルに対する国際的なカルチュラル・ボイコットのPACBIによるガイドライン(2014年7月版)[仮訳] selfishprotein