仏アングレーム国際漫画祭で表面化した二つの植民地主義


アングレーム国際漫画祭ソーダストリーム・コーナーで抗議する人権活動家たち

フランスのアングレーム国際漫画祭(1月30日〜2月2日)が、イスラエルの違法入植地で操業しているソーダストリーム社をスポンサー企業としたことに対して、世界中の著名な漫画家40人以上が連名で「恥ずべき企業との関係を断ち切ること」を要請しました。署名者の中には、『パレスチナ』の著作で知られるジョー・サッコや、連作「I am Palestinian」などで有名なカルロス・ラトゥーフも含まれています。要請時期が遅かったこともあり、残念ながらスポンサー企業からソーダストリーム社が外されることにはならなかったようです。

とはいえ、ちょうど同時期には、ソーダストリームの「ブランド大使」となったハリウッド女優スカーレット・ヨハンソンが、国際的な批判の中で、国際人道団体オックスファムの「グローバル大使」辞任を余儀なくされるなど、ソーダストリームに対する国際的な風当りはこれまでになく厳しくなっています。

ネタニヤフ首相は、2月7日、関係閣僚を招集し、高まるボイコット運動に対する対策を協議するなど、危機感を強める一方、新たな入植地住宅建設パレスチナ人の強制追放にも余念がありません。イスラエルの世論においては、ヨハンソンが、オックスファムではなく、ソーダストリームの大使の継続を選んだことをもって「勝利した」と喜ぶ声が大きく、日本と同様、「井の中の右翼」現象が強まっているようです。

ちなみに、日本では、アングレーム国際漫画祭といえば、日本軍慰安婦問題をテーマとした韓国の企画展に対し、「幸福の科学」の関係団体「論破プロジェクト」が「慰安婦の強制連行はなかった」と主張する漫画の対抗展示を行おうとして主催者から強制撤去されたことが、フジ・産経系メディアや「2ちゃんねる」などで話題になっています。また、現地日本大使館が韓国の展示を撤去させるよう、漫画祭に圧力をかけたことも明らかになっています。

※この件については、以下の記事が詳しく問題をフォローされています。
国際的漫画フェスティバルで日本が官民あげてあらわにした「自己中心的歴史認識」と「非常識」(村野瀬玲奈の秘書課広報室)
国際的漫画フェスティバルで日本が官民あげてあらわにした「自己中心的歴史認識」と「非常識」 (2)(同上)

外務省の側面支援を受けた「右派サークル」の騒ぎは国会にまで及び、2月12日には、安倍首相が衆院予算委員会で「間違った事実を並べて日本を誹謗中傷している」と韓国の漫画を批判、脱植民地主義の論理と実践を積み重ねてきた第二次大戦後の国際社会の歩みへの挑戦的姿勢を改めて明らかにしました。橋下大阪市長や籾井NHK会長などのおかげで国際的な注目を浴びつつある日本の排外主義的好戦主義は、欧州最大の漫画祭で起きた今回の出来事によって、イスラエルにおけるそれと同様、これまで以上に厳しい批判の目にさらされることになるでしょう。

なお、安倍首相は、秘密保護法成立直前の党首討論で、元日本イスラエル親善協会会長でもある石原慎太郎・維新の会共同代表から「小さくとも極めて優秀なモサドのような国家組織」を作るべきではないかと問われ、「当然です」と答えています。モサド国際法を無視した諜報活動・暗殺作戦で有名なイスラエルの対外諜報組織です。イスラエルと日本が人権無視と軍需ビジネスで連携し、これ以上国際社会の「厄介者」にならないようにするためにも、ソーダストリームの販売中止を一日も早く実現すべきでしょう。特定秘密保護法の廃止、元日本軍「慰安婦」に対する誠意ある謝罪と補償も含め、別々に現れている課題を一つながりのものとしてとらえる視点も重要だと思われます。

公開書簡

アングレーム漫画祭フランク・ボンドゥ組織委員長様

私たち、世界中の漫画家およびイラストレーターは、ソーダストリーム社がアングレーム国際漫画祭の公式スポンサーであることを知り、驚き、失望し、そして怒っています。

ご存じのとおり、ソーダストリームは国際的なボイコット運動の対象とされています。なぜなら、ソーダストリームの工場は違法入植地マアレ・アドミームにあり、そこでパレスチナ人労働者を搾取し、パレスチナ人の資源を略取することで、パレスチナの植民地化に加担しているからです。これらのことは国際法と国際人権基準に反しています。

アングレーム国際漫画祭は40年にわたり、芸術作品としての漫画の評価・鑑賞において重要な役割を果たしてきました。ソーダストリームが自らの犯罪を隠ぺいするためにこのイベントを利用することは残念なことです。

私たちは、漫画祭がこの恥ずべき企業との関係を断ち切ることを要請します。

※署名者一覧は原文サイトをご覧下さい。


【参考記事】
ソーダストリームのどこが問題?
何ができる?
ソーダストリーム回収キャンペーン:知らずに買ってしまった!という方へ
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【お薦め動画】
パレスチナからのメッセージ:ソーダストリームを買わないで下さい。
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