サイモン・ウィーゼンタール・センター:ソーダストリームを支援する「人権団体」

東京の公立図書館で「アンネの日記」をはじめとしたホロコースト関連の書籍が多数切り裂かれるという卑劣な事件の発生を受け、アメリカのユダヤ系団体サイモン・ウィーゼンタール・センターの動きが久しぶりに日本のメディアで注目されています。一般的に反ユダヤ主義への取組で知られ、評価もされているサイモン・ウィーゼンタール・センターですが、最近主要な抗議対象としているのが、パレスチナ人およびその支援者によるBDS運動であることは余り知られていないようです。

同センターによる以下のプレス・リリースは、違法イスラエル入植地製品ソーダストリームの「ブランド大使」となったスカーレット・ヨハンソンの選択を讃えるものです。多言を要せずと思いますが、「人権団体」を自称するサイモン・ウィーゼンタール・センターの知的・道徳的水準を明らかにするものだといえます。

サイモン・ウィーゼンタール・センターは、反イスラエル・ボイコットに対して断固たる姿勢を示したスカーレット・ヨハンソンを称賛する

2014年1月21日

サイモン・ウィーゼンタール・センターは、女優スカーレット・ヨハンソンが、ソーダストリームの広報活動を行う決定をしたことを讃える。ソーダストリームは、長きにわたり、反イスラエルの「ボイコット・資本引揚げ・制裁」(BDS)運動の支持者によってターゲットとされてきた、イスラエル企業によって開発された飲料製造機である。

サイモン・ウィーゼンタール・センターの創設者であり会長でもあるラッビ・マーヴィン・ヒエルは、「スカーレット・ヨハンソンが、反ユダヤ主義と同じ意味をもつBDSの活動を行う人々に対して断固とした態度を示したことを嬉しく思います」と述べた。さらに「はっきりしていることは、イスラエルが中東における唯一の本当に民主的な国だという否定しようのない事実です」と述べ、「イスラエルの隣人たちが、その民主主義を見習えば、世界はもっと良い場所になるでしょう」と結論付けた。

原文:Wiesenthal Center Hails Scarlett Johannson for Standing Up to Anti-Israel Boycotters

なお、「アンネの日記」の舞台であるオランダでは、この1〜2ヶ月の間に、BDS運動の著しい進展があり、イスラエルパレスチナ占領政策に大きな衝撃を与えているところでした。昨年12月には、35万人の組合員を擁するオランダの労組Abvakaboが、イスラエル軍イスラエルの刑務所と契約を結んでいる民間軍事企業(PMC)であるG4Sとの契約を打ち切りました。また、同月、オランダの水企業Vitensが、イスラエル入植地での事業展開を理由に、イスラエルの水企業メコロット社との提携関係を解消しました。この決定はオランダ外相との協議の後に行われました。

イスラエルにとってより深刻だったのは、今年の1月8日、オランダの年金基金PGGMが、イスラエルの大手銀行5行からの資本引揚げを決めたことでした。資本引揚げの理由は、それらの銀行がパレスチナ西岸地区におけるイスラエル入植地の諸事業に融資しているということでした。この決定について、イスラエル外務省は、オランダ大使を二度にわたり召喚し、抗議をしています。しかし、2月1日には、中東和平交渉を仲介しているケリー米国務長官が、和平交渉が失敗すれば、イスラエルに対するボイコット運動はさらに広がるだろうと発言するなど、BDS運動の影響力はイスラエルの想定を超える勢いで拡がっているようです。
(「オランダ企業の決定はイスラエルの政策への抗議を示した」とUAE紙、IPS、2014年1月11日)

これらの動きを受け、サイモン・ウィーゼンタール・センターは、オランダのローデワイク・アッシャー副首相宛に2月6日付けで抗議書簡を送っています。その中で強調されているのは、「イスラエルパレスチナ人に対する絶滅戦争を行っていると思うか?」との問いにオランダ人の39%が肯定したという「調査結果」です。センターは、その原因を例によってオランダにおける反ユダヤ主義に結びつけ、なぜこのような歪んだイスラエル・イメージが作られてしまったのか、オランダ政府は調査すべきだと大まじめに要求しています。高まるイスラエル批判の根本原因を飽くまでも「イスラエルの外」に見出そうとする姿は、まさに日本の排外主義者を彷彿させるものがあります。
(SWC Urges Dutch Deputy PM to Launch Probe of Spike in Anti-Semitic and Anti-Israel Attitudes, Simon Wiesenthal Center, 13 February 2014)

こうした動きのなか、オランダにおけるイスラエルの情報(宣伝)活動のターゲットとして浮上していたのが、実はアンネ・フランクでした。BDSに取り組むオランダの活動家がアンネ・フランクの肖像にカフィーヤ(パレスチナ人が伝統的に使っているスカーフ)を配したデザインをツイッターのロゴとして用いていたことに同国のシオニストグループが目を付け、「BDS運動=反ユダヤ主義」という批判の声を集中させたのです。迫害の犠牲者の肖像を象徴的に用いる手法として稚拙な印象は否めないものの、自由と解放に向けた闘いの象徴としてのカフィーヤをアンネに結びつけた意図が反ユダヤ主義とは別のところにあることは明らかであるように思われます。なお、現在、問題とされたロゴはオランダのBDS運動で使われていないようです。
(The controversy of Anne Frank, Jewish News One, 22 February 2014)

このオランダにおけるBDS論争が、日本における「アンネの日記」損壊事件と関係しているのか、いないのかは分かりませんが、サイモン・ウィーゼンタール・センターが、国際的なBDS運動への対応を睨みながら、日本での活動の展開を考えていることは間違いないように思われます。日本における排外主義の広がりが、結果として同センターに「人権団体」として経ち振る舞う余地を与えてしまっていることは、反ユダヤ主義を含む人種主義との闘いやパレスチナの脱植民地化、そして日本の脱帝国化といった諸課題において、普遍的観点に基づく連帯の思想と行動を阻害するという点で極めて憂慮すべき事態であると言わざるを得ないでしょう。


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