あえて説明責任を拒否するというソーダストリームの戦争ビジネス戦略

少々遅い報告になってしまいましたが、去る10月20日、「ストップ!ソーダストリーム」キャンペーン有志の市民は、大阪梅田のロフトに行き、ソーダストリームの販売中止を要請してきました。お揃いで「ぼいこっとTシャツ」を着ていたためか、慌てた様子で管理課と警備員の方がまず来られたのですが、「ソーダストリームのことで販売担当の方にお聞きしたいことがありまして・・・」と伝えたところ、スタッフの方を呼んできてくれました。ところが・・・。

  • 有志: このソーダストリームの原産国がイスラエルとなっているんですが、ちょっと問題がありまして・・・。
  • 販売スタッフ: ガスシリンダーのことでしたら、正規のものですから、問題ございませんので・・・。
  • 有志: いや、そうではなくて、本体の方の実際の原産地が、イスラエルが占領しているパレスチナの中の入植地で作られているという・・・。
  • 販売スタッフ: ですから、ガスシリンダーのことでしたら、問題ございません。
  • 有志: いやいや、私たちがお聞きしたいのは、ソーダストリームの本体が作られている工場が、国際法上違法とされているイスラエルの入植地にあるということでして、そのことは本社には伝えてあるのですが、お返事がなかったので・・・。
  • 販売スタッフ: そんな難しいことをいきなり言われても困ります。私ちょっと気分が悪くなってきたのでこれで失礼します。後は皆さん、お願いします。(立ち去る)
  • 有志+管理課スタッフ+警備員: ・・・。(一同唖然)

この随分とユニークなロフトの苦情対応をあえて分析するとすれば、私達のプレゼンテーション力の至らなさもあったにせよ、ソーダストリーム独自の問題が背景にあることは間違いないように思います。つまり、小売店にとって、ソーダストリームは、相当ややこしい商品だということです。ロフトの販売スタッフの方が言うガスシリンダーというのは、炭酸ガスのボンベのことですが、これは高圧ガス規制法の対象となる危険物であるため、各店舗は都道府県に取扱いの申請をしなければなりません。どうやら非正規に輸入されたガスシリンダーが出回っているようで、店員さんは、おそらくそのことへの苦情と勘違いされたのでしょう。ちなみに、ガスシリンダーを勝手に捨てると『5年以下の懲役若しくは1千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する』という厳罰に処されるため、購買者に対しては、しっかりと説明をしておく義務もあります。また、ガスシリンダーの不法投棄を防止するため、購買者の個人情報を各店舗で管理する必要もあり、その情報を小売店のミスで紛失してしまったケースもあります。このようなソーダストリームに関する販売マニュアルを店員が頭に入れるだけでも、なかなか大変な労力であるように思われます。

ただでさえ店員の負担を理不尽に増やす商品である上に、パレスチナ人に対する人権侵害に加担している違法商品だということで、市民からの苦情対応の責任まで現場の店員が負わされるとなれば、上述のような「キレる」店員が出てくることもあり得ないことではないでしょう。おそらく、ソーダストリームの原産地問題に関して、市民から質問や抗議がくる可能性については、輸入代理店のシナジートレーディングから何らかの説明がなされていることは当然のことであろうと思われます。しかし、ロフトの店員さんは、ソーダストリームに関して知っておくべき情報が余りに多すぎて、少々混乱されてしまったのでしょう。小売業界の不況の中で十分なスタッフ配置・スタッフ教育もままならない店舗の側の事情を察して余りある事態といえます。

この間、当キャンペーンの有志や「パレスチナと仙台を結ぶ会」がソーダストリーム販売小売店に送付した質問書に対して、示し合わせたかのように一切回答がないのも、同様の問題が背景にあるように思われます。一言で言ってしまえば、「そんなややこしい問題に関わっている余裕はない」ということです。各々の小売店にとって、いくらソーダストリーム国際法上の違法商品であり、人権侵害商品であったところで、国内法で罰せられるリスクがほとんどないのであれば、売れるだけ売った方が得だ、という計算が働いたとしても、今の世の中、不思議なことではありません。

しかし、自分が販売している商品に対する苦情を小売店がまともに引き受けることもできない、というのであれば、そもそも一体誰が、ソーダストリームの売上の一部が違法なイスラエル入植地の運営資金にされてしまうという、大がかりな詐欺商法について責任を取るのでしょう?(※ソーダストリーム社は、工場があるマアレ・アドミーム入植地に税金を納めています)

輸入代理店シナジートレーディングは、市民からの質問書や度重なるメール・電話での問い合わせに対して、完全に無視を決め込んでいます。原産地問題について正面から議論をすることは、自分たちにとって不利だということが分かっているからでしょう。一方、イスラエル製品としてソーダストリームの輸入許可を出している財務省は、2010年に「パレスチナの平和を考える会」が入植地製品の原産地表示問題について問い合わせた際には、外務省の方に聞いてもらわないと何とも言えない、ということでした。そして、外務省は、「入植地製品の原産地がイスラエルとなっているとすれば、正確な表示とはいえないので、省庁間で話をする」と言ったきり、ほったらかしです。現実にその責任を引き受けているのは、現在、ソーダストリームの工場があるマアレ・アドミーム入植地の拡張によって強制追放の危機に立たされている2300人のパレスチナベドウィン達なのです。
参考1)なぜソーダストリームを買ってはいけないのか? ―パレスチナ人にとっての入植地
参考2)なぜソーダストリームを買ってはいけないのか? ―パレスチナ人にとっての入植地(その2)

BDS(ボイコット・資本引き揚げ・経済制裁)キャンペーンはまさに、このようなパレスチナ人の苦難に対する国際社会・日本社会の総無責任体制とでもいうべき状況を変えるために呼びかけられているものです。それは、パレスチナ人が被り続けている不正に対する構造的黙認に関わる一人ひとりの市民が、自分の責任でどれだけ小さなことであっても行動を起すことから、状況を変えていこうとするものです。イスラエル入植地製品ソーダストリームを販売することは、現在進行中の戦争犯罪に対する加担行為であって、この戦争ビジネスを止められるのは、今のところ、草の根の市民による圧力しかないのです。


■参考
ソーダストリームのどこが問題?
何ができる?
ソーダストリーム回収キャンペーン:知らずに買ってしまった!という方へ
違法イスラエル入植地製品ソーダストリームを販売している小売企業・貢献度ランキング